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(2)大規模災害時の防災活動のイメージを具体的に提供する
阪神・淡路大震災後、非被災地の多数の地方公共団体から次のような声が共通的に出てきている。
「阪神・淡路大震災が大変な災害であったことはマスコミ報道を通じて相当詳しくわかっているつもりではあるが、いざ自分たちの活動を見直そうとするとさっぱりイメージできない。あのような大規模災害のとき自分たちの活動はどのような状況や問題に直面するのかが具体的にわからないため、地域防災計画の見直しに支障をきたしている」といった趣旨のものである。
これは単に被害想定を行えばすむというレベルの問題ではなく、背景知識として大規模災害時の防災活動のイメージをいかに実践的な形で有しているかという問題である。
このことを具体的に考えてみよう。
被害想定で算定される項目の一つに「死者数」がある。既に何度も引用している表14を用いると、阪神・淡路大震災級の地震に襲われたとき、人口10万人クラスの市では約250〜500人程度の死者が出る可能性がある。人口1万人クラスの町村でも約25〜50人といったように、死者はかなりの数に上ることが考えられる。
この数字は、大規模災害時の防災活動のイメージを具体的に有していない人にとっては、それだけの数字にしか過ぎない。しかし、そのイメージを具体的に有している人には、この数字は次のように防災活動のあり方と結びつけて読めるのである。
まず、これだけ多くの死者が発生した場合には、通常の火葬能力では全く対応できなくなるということがイメージされる。さらに、地震により火葬場が被害を受け、使用不能になる可能性が高いということも予想の中に入ってくる。あわせて、遺体の検案・検視(医者、監察医が不足する)、柾の手配(必要な数だけの枢がすぐには揃えられない)、遺体の収容・安置(身元確認のできない遺体が多くなり保存も長期化する。夏期などの場合は特にドライアイスの手配なども重要になる)、遺族・親族等への連絡(電話回線の不通のため連絡はきわめて困難になる。また、交通事情の悪化で遺族・親族が予定どおり火葬場・葬儀場に集まれるとは限らない)、霊枢車等の手配(霊枢車の不足や道路事情悪化の問題がある)の点でも、通常では考えられない困難な事態が続出することがイメージされる。
このように、大規模災害時の防災活動に関する実践的なイメージを有していると、得られた数字を手掛かりに「死者」に係わってくる活動の様子を読み解いていくことが可能となり、その結果、死者対策に係る問題と対策のあり方が具体的に見えてくるようになる。
ところで、このような大規模災害時の防災活動に関する具体的イメージを獲得するには、当該地方公共団体の職員の努力だけでは限界がある。最も有効なのは実際の大規模災害時の防災活動の状況とその問題点をできるだけ忠実に記録したものが広く公開されることである。その意味で活用できる最良のものは被災地方公共団体が刊行する災害記録であるが、残念ながら、近年、その記述内容にはあたりさわりのないものが多くなってきている。すなわち、実施した防災活動を単に羅列しただけのものが多くなっており、どのような災害局面に遭遇し、どのように活動したのか、その活動に伴う困難は何であったのか、また、その活動からはどのような教訓・課題が得られたのかといったことなどが詳述されることはなくなってきている。
しかし、冒頭に記したように、それこそが非被災地の防災関係者にとっては喉から手が出る程欲しいものなのである。
被災地方公共団体にこのような傾向があるのは、問題点を具体的に記述した刊行物

 

 

 

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